戦争がはじまり、家族とはなれて平和な国へひとり旅立つシッカ。むかえる平和な国の家族には、
マルガレータという同じ年ごろの女の子がいました。ふたりは、反発し合いますが……。
スウェーデンの代表的な児童文学作家ウルフ・スタルクが、子どもたちの集団疎開を、ふたりの少女の視点から
ていねいに描いた絵本。
作/ウルフ・スタルクUlf Stark
スウェーデン、ストックホルム生まれ。現代スウェーデン児童文学を代表する作家。リンドグレーン賞などさまざまな賞を受賞している。著書に『おじいちゃんの口笛』(ほるぷ出版)、『シロクマたちのダンス』『夜行バスにのって』(偕成社)、『ちいさくなったパパ』(小峰書店)、『パパが宇宙をみせてくれた』(BL出版)など多数ある。
絵/スティーナ・ヴィルセン Stina Wirsén
スウェーデン、ストックホルム在住。新聞や雑誌、切手などさまざまな媒体でイラストを描いており、絵本作家としても活躍。エルサ・ベスコフ賞など多数の賞を受賞している。絵本に「やんちゃっ子の絵本」シリーズ、『あたしおねえちゃんなの』(クレヨンハウス)、『リトルピンクとブロキガ おばけのくに』(主婦の友社)などがある。
この物語の作者ウルフ・スタルクの国スウェーデンは、第二次世界大戦中、中立国として平和を保っていました。しかし、隣国のフィンランドは戦争に巻き込まれ、大勢の子どもたちがスウェーデンへ逃れてきました。作者の妻の親戚のボッセも、その一人でした。幼いボッセは、シッカと同じように両親と別れ、言葉もまったく分からないスウェーデンへと船に乗ってやってきたのです。シッカはリスを見つけてうれしくなりますが、ボッセも、知らない国でさびしく感じていたときに、よく見慣れたリスを目にして、とても勇気づけられたそうです。
ようやく戦争が終わり、シッカは両親と再会します。一方、ボッセの父親は戦地でのケガがもとで亡くなってしまい、再会はかないませんでした。
なかには、どうにか家族と再会できても、スウェーデンで長くくらしているうちにフィンランドの言葉を忘れてしまい、家族と意思の疎通ができなくなってしまった子もいました。戦争は、多くの子どもたちを後々まで苦しめつづけたのです。
残念ながら、現在も戦争や紛争はなくならず、世界のあちこちで、たくさんの人が、ほかの国へ逃れることを余儀なくされています。クラスにシッカのような子がいる、という人もいるでしょう。少しでも安心して楽しくすごしてもらうために何ができるか、この本がヒントになればうれしいです。
ウルフ・スタルクは「多様な切り口で現代社会の課題を自在に著す児童書作家」としていつも注目しています。
この絵本では、戦争から逃れて疎開した側と、受け入れる側の二人の少女が、生活の激変で起きる軋轢や怒りや不安を互いにぶつけ合い、徐々に関係性が変化していくさまが、エピソードや会話、微妙な表情から描かれています。
「戦争」や「難民」の過酷さ、理不尽さを子どもたちが理解するのに、この絵本はよい道案内になることでしょう。少女たちの成長物語としても印象深く、読み応えのある一冊です。